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2016.11/27 [Sun]
幻の秘曲BALADA ~トランシルバニアの落日~
に寄せて
幻の秘曲BALADA「バラーダ」 ~暮れゆくトランシルバニア~

ここにひとつの物語があります。
自ら優れたヴァイオリン演奏者であり、なおかつ日本人外交官である岡田真樹氏と、謎のルーマニアン.ヴァイオリニストとの数奇なる出遭いと友情の物語。
若き日、岡田氏はドイツを旅行中、ある街で冬の夜に聴こえてきた楽の音に魅せられて思わずそのヴァイオリンの弾き手を訪ねてしまいました。彼の名はヴェレーシュといいました。反政府運動に参画していたのでしょうか、彼は当時のチャウシェスク政権に疎まれて単身ドイツに逃れ、ひとり漂泊の日々を送っているのだという。そして、残してきた家族や故郷を思うと夜も眠れず、母国ルーマニアを偲んではこの曲を弾いているのだと語りました。
8年後、ふたりが再会を果たしたのはスイスのチューリッヒでした。その日ヴェレーシュは、ある古びた一枚の楽譜を岡田に手渡しながらこう言いました。「この曲が、初めてお会いした夜、私が弾き貴方が感動して私をお訪ね下さった秘曲≪バラーダ≫です。百年ほど前に書かれたものですが、私はこの譜面をいつも手放したことがありません。貴方との思い出にこれを差し上げますからお弾きください。そして、もしこの曲を弾くに相応しいヴァイオリニストを見つけることが出来ましたら、見る事の叶わぬあなたの母国で演奏していただけると嬉しい」
瞬く間に数年の歳月が流れ、岡田氏は約束どおり素晴らしい女流ヴァイオリニストを見つけ出し、日本での初演を依頼しました。天満敦子氏です。大型の、溢れるような情感を湛えた天満氏は、物悲しく望郷の想いに満ちたこの曲をトランシルヴァニア平原の落日を思わせるばかりに見事に弾ききりました。
原曲の旋律はジプシーのそれから採られたものであろう、忘れがたい懐かしさ、望郷の想いに胸塞がれる想いを彷彿とさせます。この幻の秘曲をリリースするにあたり、ヴェレーシュの所在を追い求めたものの、母国ルーマニアはじめ彼の所在を知るものは誰も居ず、今も彼のゆくえはようとして知れないといいます。

ポルムベスク
のちに判ったことですが、この曲は岡田氏がベレーシュと会った約100年ほど前に生きたチプリアン・ポルムベスク (1854~1883)の手によるもので、 やはりルーマニアの作曲家でした。 いかにも、筋金入りの愛国者というか、反骨のトランシルバニア魂を彷彿とさせるような面構えです。
ポルムベスクは、ウイーンに学び巨匠ブルックナーの薫陶を受けたルーマニアの作曲家でした。稀有の天才として前途嘱望されていましたが、独立運動に参加して投獄の憂き目を見、病を得て29歳の若さでこの世を去ったと言われています。只、独立といってもルーマニアは1859年にクリミア戦争の結果、オスマントルコから独立しているので、ヴェレーシュが関わったのは「独立運動」というよりはむしろ、多分社会主義運動ではないかと私は推測しています。1990年、チャウシェスク政権下で、国歌はポルムベスクの作曲だったようですから。

ルーマニアの地図
「望郷のバラード」(原曲:BARADA)は彼が投獄にあって故郷を偲びつつ
作曲したと言われる哀愁の名旋律で、音楽ははルーマニアの土俗音楽である「ドゥイナ:哀歌」の雰囲気を濃厚に持ち、情感溢れる演奏が要求される曲です。
この曲を世に出した岡田氏と、望郷の思いでこの曲を弾いていた亡命人ベレーシュとの出会い。その曲の作曲者であるとわかったポルムべスク自身もまた、投獄にあって故郷を偲びつつ作曲した旋律だったとは...。どおりで物悲しく憂いに満ちたしらべの筈です。29歳で早逝してしまうなんて、本当になんて哀れな天才音楽家でしょうか。
まるで、この曲を世に生み出すために生まれてきたような人生です。
でも、だからこそ、後世こんなにもこの曲が愛されているのかもしれません。ヴェルーシュという謎の人物も、この作品のプロモーションに何役も買っていますよね。天満敦子氏が哀愁を込めて弾く弦の音色が物悲しく響けば響くほどに彼の哀しい末路を暗示するようでなりません。

ドラキュラの城といわれるブラン城
≪望郷のバラーダ≫ 演奏は天満さんご自身です
こちらも素晴らしいオケバージョン https://www.youtube.com/watch?v=cOzJG7uIxf0 by Sara pe deal
上にアップしたのはその曲の収録されたCD。夜中にひとりこの曲を流していると本当に涙がでるほどの切なさを覚えるのは自分だけでしょうか。
それにしても、隣国ユーゴのコソボ紛争といい旧社会主義国家のこれら東欧の国々は内戦の歴史に包まれていて、生まれてくる文化や音楽も、どこかしら哀しい香りに縁取られている気がします。あんなにも美しい土地柄なのに...。
牢獄のポルムベスクと、望郷の念を抱きつつチューリッヒに仮寓していたヴェルーシュが恋焦がれた美しいトランシルバニアの落日を、死ぬまでにこの目でぜひ一度は見てみたいものです。
美雨
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