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ちょっとだけスピリチュアルな世界の旅日記や 文化、歴史のぷち・エッセイを書いています。他にも海外、国内のお気に入りのドラマのあらすじ&感想を勝手気ままに綴っています。

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幻の秘曲BALADA   ~トランシルバニアの落日~


FC2トラックバックテーマ 第2196回「ノスタルジックな気持ちになる瞬間は?」


に寄せて


幻の秘曲BALADA「バラーダ」  ~暮れゆくトランシルバニア~


ルーマニアの夕日



ここにひとつの物語があります。

自ら優れたヴァイオリン演奏者であり、なおかつ日本人外交官である岡田真樹氏と、謎のルーマニアン.ヴァイオリニストとの数奇なる出遭いと友情の物語。

若き日、岡田氏はドイツを旅行中、ある街で冬の夜に聴こえてきた楽の音に魅せられて思わずそのヴァイオリンの弾き手を訪ねてしまいました。彼の名はヴェレーシュといいました。反政府運動に参画していたのでしょうか、彼は当時のチャウシェスク政権に疎まれて単身ドイツに逃れ、ひとり漂泊の日々を送っているのだという。そして、残してきた家族や故郷を思うと夜も眠れず、母国ルーマニアを偲んではこの曲を弾いているのだと語りました。

8年後、ふたりが再会を果たしたのはスイスのチューリッヒでした。その日ヴェレーシュは、ある古びた一枚の楽譜を岡田に手渡しながらこう言いました。「この曲が、初めてお会いした夜、私が弾き貴方が感動して私をお訪ね下さった秘曲≪バラーダ≫です。百年ほど前に書かれたものですが、私はこの譜面をいつも手放したことがありません。貴方との思い出にこれを差し上げますからお弾きください。そして、もしこの曲を弾くに相応しいヴァイオリニストを見つけることが出来ましたら、見る事の叶わぬあなたの母国で演奏していただけると嬉しい」

瞬く間に数年の歳月が流れ、岡田氏は約束どおり素晴らしい女流ヴァイオリニストを見つけ出し、日本での初演を依頼しました。天満敦子氏です。大型の、溢れるような情感を湛えた天満氏は、物悲しく望郷の想いに満ちたこの曲をトランシルヴァニア平原の落日を思わせるばかりに見事に弾ききりました。
原曲の旋律はジプシーのそれから採られたものであろう、忘れがたい懐かしさ、望郷の想いに胸塞がれる想いを彷彿とさせます。この幻の秘曲をリリースするにあたり、ヴェレーシュの所在を追い求めたものの、母国ルーマニアはじめ彼の所在を知るものは誰も居ず、今も彼のゆくえはようとして知れないといいます。



ポルムベスク
ポルムベスク



のちに判ったことですが、この曲は岡田氏がベレーシュと会った約100年ほど前に生きたチプリアン・ポルムベスク (1854~1883)の手によるもので、 やはりルーマニアの作曲家でした。 いかにも、筋金入りの愛国者というか、反骨のトランシルバニア魂を彷彿とさせるような面構えです。
ポルムベスクは、ウイーンに学び巨匠ブルックナーの薫陶を受けたルーマニアの作曲家でした。稀有の天才として前途嘱望されていましたが、独立運動に参加して投獄の憂き目を見、病を得て29歳の若さでこの世を去ったと言われています。只、独立といってもルーマニアは1859年にクリミア戦争の結果、オスマントルコから独立しているので、ヴェレーシュが関わったのは「独立運動」というよりはむしろ、多分社会主義運動ではないかと私は推測しています。1990年、チャウシェスク政権下で、国歌はポルムベスクの作曲だったようですから。



ルーマニアの地図
ルーマニアの地図



「望郷のバラード」(原曲:BARADA)は彼が投獄にあって故郷を偲びつつ
作曲したと言われる哀愁の名旋律で、音楽ははルーマニアの土俗音楽である「ドゥイナ:哀歌」の雰囲気を濃厚に持ち、情感溢れる演奏が要求される曲です。

この曲を世に出した岡田氏と、望郷の思いでこの曲を弾いていた亡命人ベレーシュとの出会い。その曲の作曲者であるとわかったポルムべスク自身もまた、投獄にあって故郷を偲びつつ作曲した旋律だったとは...。どおりで物悲しく憂いに満ちたしらべの筈です。29歳で早逝してしまうなんて、本当になんて哀れな天才音楽家でしょうか。
まるで、この曲を世に生み出すために生まれてきたような人生です。

でも、だからこそ、後世こんなにもこの曲が愛されているのかもしれません。ヴェルーシュという謎の人物も、この作品のプロモーションに何役も買っていますよね。天満敦子氏が哀愁を込めて弾く弦の音色が物悲しく響けば響くほどに彼の哀しい末路を暗示するようでなりません。



ドラキュラの城といわれるブラン城
ドラキュラの城といわれるブラン城


≪望郷のバラーダ≫ 演奏は天満さんご自身です


こちらも素晴らしいオケバージョン https://www.youtube.com/watch?v=cOzJG7uIxf0 by Sara pe deal



上にアップしたのはその曲の収録されたCD。夜中にひとりこの曲を流していると本当に涙がでるほどの切なさを覚えるのは自分だけでしょうか。


それにしても、隣国ユーゴのコソボ紛争といい旧社会主義国家のこれら東欧の国々は内戦の歴史に包まれていて、生まれてくる文化や音楽も、どこかしら哀しい香りに縁取られている気がします。あんなにも美しい土地柄なのに...。
牢獄のポルムベスクと、望郷の念を抱きつつチューリッヒに仮寓していたヴェルーシュが恋焦がれた美しいトランシルバニアの落日を、死ぬまでにこの目でぜひ一度は見てみたいものです。



美雨




❤今日も最後まで読んでくれてありがとう❤
トランシルバニア




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  • 2016.12/01 19:26分 
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そら太郎ママさま 

こんばんは。いつもお優しいコメントをありがとうございます。
今日から12月ですね。早いものです。

何度も聞くには重い曲ですが、この曲を聴いてから東欧の歴史に興味をもつ人も多くなりそうですね。
悲しい歴史を物語るのは、教科書より、こうした音楽のほうが雄弁な気がしますね。

  • posted by MIUMIU 美雨 
  • URL 
  • 2016.12/01 01:46分 
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kiraraさま 

kiraraさん、こんばんは^^
11月の積雪は驚きでしたね。名古屋でも積ったのですか。
あのあと、また温かくなったりして、最近の気候はいたずらっ子のようですね><!?

そうですか、こんどは上海ですか。
上海ガニのおいしい季節ですね!蘇州の水辺の風景と一緒に楽しんできてくださいね^^
余談ですが、いま、JALの上海便でドラえもんキャンペーン2016をやっていますね。
中国でも大人気のドラエもん、ドラエもんジェット大好評みたいです。
ドラえもんコラボは国内線はありましたが、国際線でドラエもんが飛ぶのは今回が初めてなんですよね^^
海路線で大活躍のB767-300ER機材、かわいいですよ、うまくこの便にあたるといいですね^^

> それにしても、本当にせつなく、望郷を思うせつなさがひしひしと感じられる曲ですね。
> この曲を作られた方、29歳で逝去されたなんて、あまりに哀しく短い人生です。

そうですね、本当にポルムベスクはこの曲のために生まれてきたのかもですね。
そして、ベレーシュは、この曲を日本人を通して世に出すために遣わされたのかもしれませんね。
  • posted by MIUMIU 美雨 
  • URL 
  • 2016.12/01 01:40分 
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NoTitle 

美雨様のおかげで、歴史と情緒豊かな素晴らしい音楽に触れることができて感謝しています。
何度聞いても、心が揺さぶられます。
ありがとうございます。
  • posted by そら太朗ママ 
  • URL 
  • 2016.11/30 09:05分 
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こんばんは♪ 

美雨さん、こんばんは♪
先週の雪は大丈夫でしたか?
東京の友人達からは雪の写メが送られ、かなりの積雪にビックリしました。
名古屋も昨日から急激に寒くなったので、明日からダウンコートで出社しようかと思っています。
ところで今週末は、上海に行く予定です。
上海ははじめてですからとても楽しみ(*^_^*)

それにしても、本当にせつなく、望郷を思うせつなさがひしひしと感じられる曲ですね。
この曲を作られた方、29歳で逝去されたなんて、あまりに哀しく短い人生です。
美雨さんがおっしゃるように、この曲を世に生み出すために生まれてきたような感じがします。

今日も素敵な美雨さんをイッパイ応援 (^_-)-☆
  • posted by kirara 
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  • 2016.11/29 22:29分 
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べえべえさま 

渡航前のお忙しい中、コメントありがとうございます。

べえべえさんおっしゃるように、東欧の歴史は、概してですがいつも西欧列強に付随して、ハンガリー以東、ルーマニアやユーゴ、バルカン半島ひと纏めに教えられることが多く、日本ではあまり強い印象がないように思います。その分近代に入ってから鬱屈した宗教・民族問題がいっきに噴出してクローズアップした感があります。
けれど、少し興味深く紐解いていくとルーマニアもユーゴもアルバニアも全く違う個性を持った国なんだということに気づきます。その端緒をひらいてくれるのは、小説家だったり音楽家だったり、最近はスポーツの祭典だったりする訳ですね^^

> 僕はクラシック音楽も東欧の近代史もまったく知らないんですが、音楽というのもやはり時代への抵抗という要素のあるエンタテイメントなんですね。聞かせていただきましたが、紹介されている通り、本当に物悲しい音色でした。

べえべえさんの文章を読みながら「絵は聴くもの、音楽は観るものだ」という言葉を思い出しました。
ベートーベンは、独立戦争に敗れたネーデルラントの英雄の死を「エグモント序曲」で表し、ナポレオンへの失望を「エロイカ」で表現していますし、ショパンなどは最たるもので、蹂躙された祖国ポーランドへの想いがひしひしと伝わる曲ばかりです。その望郷の想いは、映像(イメージ)となって、実際のビジュアより鮮烈に脳裏に焼きつくものですね。

こちらこそ、マニャックな音楽記事なのに、最後まで聴いてくださり、素晴らしい感想をありがとうございました。
  • posted by MIUMIU 美雨 
  • URL 
  • 2016.11/29 07:22分 
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  •  
  • 2016.11/29 06:36分 
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NoTitle 

何度聞いても頭に入らない東欧の歴史ですが、こうしてひとりの人物やひとつの楽曲にテーマを当てることで、生命の息吹が芽生え、頭の中にすーっとその難しい歴史が溶けいるように入ってきました。

僕はクラシック音楽も東欧の近代史もまったく知らないんですが、音楽というのもやはり時代への抵抗という要素のあるエンタテイメントなんですね。聞かせていただきましたが、紹介されている通り、本当に物悲しい音色でした。
いやいや、悲しいと一言では言い表せない、なんでしょう、なにかを訴えているような、愛情ありの望郷ありの、聞きなれない者にとっても聞きごたえのある楽曲でしたよ。
すばらしい曲を教えていただきありがとうございました。
  • posted by べぇべぇべぇ 
  • URL 
  • 2016.11/28 22:11分 
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かえるママさま 

こんばんは。^^
以前のかえるママさまのお話では、近年天満さんは札幌でも公演にいらしたとか。
かえるママさまのこと、きっと聴きにいらしたのではないでしょうか。

本当に、「悲しみをバイオリンで歌う」という表現がピッタリですね。
この旋律は、故郷を想う気持ちから、生まれるのでしょうか。
切なくて、胸が締め付けられる思いが、このしらべからあふれ出てきますね。
そして、世界から、内戦、紛争が無くなる日が来るのだろうかと 考えさせられます。

> 不思議なのが、どこか懐かしさを感じるのは天満敦子さんが日本人でいらっしゃるからなのでしょうか?

この曲を託された岡田氏のお眼鏡にかなったのが、天満敦子さんだったことを考えると、やはり彼女にしか表せないなにかがこの曲には秘められているのかもしれませんね。望郷とかノスタルジー(追憶)とか・・・日本的な感性にもきっと何かが合致するのかもしれませんね。
  • posted by MIUMIU 美雨 
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  • 2016.11/27 22:04分 
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  • 2016.11/27 21:51分 
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NoTitle 

こんばんは。
素晴らしい音色にうっとりと聴き入りました。
なんとも切ないビブラートに高音では涙を流していらっしゃる様な音色.....
投獄中に故郷を偲ぶ想いはいかがばかりかと想像します。
内戦地域では分断された人の想いが切なすぎますね。
不思議なのが、どこか懐かしさを感じるのは天満敦子さんが日本人でいらっしゃるからなのでしょうか?
  • posted by かえるママ21 
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  • 2016.11/27 19:52分 
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  • 2016.11/27 12:32分 
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  • 2016.11/27 07:49分 
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MIUMIU 美雨

Author:MIUMIU 美雨
旅、歴史、長編ドラマ(短編も)のレビューやエッセイを書いています。
文化系の記事が多いですが、歴史ドラマ(大河ドラマ:八重の桜)や、韓ドラレビューも書きます。中でもソン・イルグクさんの作品が大好きです。
更新はマイペースで続けていきますのでどうぞよろしくお願い致します。

過去記事は画面右上の検索フォームか左下のカテゴリー、早見表で探して下さい。

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